平重衡を追う(59)~ 文使い地蔵



毎年7月24日、東大寺塔頭・知足院で地蔵会の法要があります。
東大寺の塔頭の中で、一般者が参列できるのは知足院の地蔵会だけと思います。
この日だけ知足院本堂が開けられ、本尊のお地蔵さんも特別に開扉されます。
幸運なことに、今年2017年も法要に参列できました。

以下、昨年2016年の知足院地蔵会の記事を一部編集して再掲します。


知足院本堂での法要は、午前8時に始まります。
東大寺一山の僧侶が出仕されるそうですが、今回24名でした。
唱えられるお経は、「九条錫杖」 と 「理趣三昧」。
「九条錫杖」 は、二月堂修二会でも耳にします。フシや速度が少し違いますが。
「理趣三昧」 では、導師を除いた一同が理趣経を唱えながら堂内を行道します。
これだけの人数の僧侶がお堂の中で読経するのは、見ごたえ、聞きごたえ十分です。

法要は1時間あまりで終了。

法要後、参拝者は堂内の厨子に安置されている本尊・地蔵菩薩立像を間近で拝むことができます。
截金も美しい、凛としたお地蔵さんです。
(参拝者の状況を見ながら10時半ごろには閉まるようなので、堂内拝観はハードルが高い)。


このお地蔵さんには、伝説があります。

  平重衡による南都焼き討ちに遭った東大寺を大勧進・俊乗房重源さんとともに再興するため、
  造東大寺長官となった藤原行隆は、再興事業半ばで死去。
  今でいう過労死だったようです。
  嘆き悲しんだ幼い娘は、亡くなった父親へ手紙を届けて欲しいと
  父親が信仰していたお地蔵さまに毎日泣きながらお祈りしました。
  すると7日目の朝、お地蔵さまの手に娘の手紙とは別の手紙が結び付けられていました。
  その手紙は亡き父親の筆跡による返事で、今、私は兜率天 [とそつてん] にいるので嘆き悲しむことはない、
  おまえは大仏さまにいつもお祈りしなさい、などと書いてあって娘は驚くとともに大喜びした、
  という伝説。
  このお地蔵さまが、現在、東大寺塔頭知足院におわす 文使い地蔵 [ふみづかいじぞう] さんです。


歴史に 「もし」 は禁句ですが、もし重衡が焼き討ちしなければ、藤原行隆の過労死はなかったでしょう。
でも、「文使い地蔵」 もなかったということになります。
歴史の皮肉ですね。
少し強引ですが、平重衡ゆかりのお地蔵さまとも言えるかも知れません。

なお、知足院地蔵会は法要だけです。
子供向けのイベントとか、お菓子やおもちゃなどの授与はありませんので、
そういったことを期待して行ってはいけません。






≪余談1≫

  奈良国立博物館で開催中の 「源信」 展。 (期間:2017年7月15日 ~ 9月3日)
  8月1日から伝説の 「文使い地蔵」 さん、お出ましになりますよ。
  寺外展示は、あべのハルカス美術館で2014年に開催された 「東大寺」 展以来でしょうか?



≪余談2≫

  東大寺再興に尽力した造東大寺長官・藤原行隆は、二月堂修二会 (お水取り) の過去帳で、
  “造寺長官行隆左大弁” [ぞーじのちょーがん ゆきたかの さだいべん]
  と読み上げられていますよ。
  ちなみに、行隆から数えて3人目は後白河法皇、18人目は源頼朝が登場します。
  なお、藤原行隆は 『平家物語』 の 「行隆之沙汰」 の段に登場する人で、平清盛のおかげで朝廷に復帰できた。



≪余談3≫

  知足院地蔵会法要後、ご朱印を所望されている方がいらっしゃいましたが、
  知足院さんは普段も受け付けておられません。
  普段もお堂は閉まっていて、堂内参拝はできません。





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ちはるかさん、こんばんは!

コメントありがとうございます。

文使い地蔵さん、奈良博へのお出ましはあまり知られていなかったようですね。
地蔵会が終わったので、ちょっとそこまで散歩に行ってこようかな、みたいな感じでしょうか。
お堂で見るのとは違って、明るいところで展示されるので、截金ももっとよく見えるはずです。
手紙を手に持っていれば最高でしょうけど、それは難しそうですね。
2、3年前に重文の指定を受けた厨子も要チェックですよ。

文楽の「金太郎~」は、人形遣いも一緒に宙乗りしますから、おー!ってなったでしょう。
奈良から近鉄で乗り換えなしで劇場へ行けますから、便利ですね。

こんばんは

文使い地蔵さん、「源信展」にいらっしゃるのを知りませんでした。
昨日は途中で失礼をしてしまってので
嬉しいニュースです。
時折涼しい風が吹く知足院の法要は
真夏の白昼夢のようでしたね。

夏休み文楽も楽しかったです。
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